運送会社(物流業界)の働き方改革と経営の安定化について
現在までトラック運送業界及び物流業界は日本の経済活動を支える重要なインフラを担ってきました。特にトラック運送業界については、過去から長時間労働の問題が叫ばれてくるなか日本の物流を支えてきました。しかしながら現在政府は働き方改革実現に向かって動き出しております。今回はこの働き方改革にどう対応すればトラックドライバーと経営者が生き残れるかを考察していきたいと思います。

働き方改革を簡単に考えてみましょう。
働き方改革とは?(働き方改革の3本柱)
高齢者の就労促進
65歳以上でも高齢者が働ける場所を増やし労働人口を増加させる。
非正規社員と正社員の格差是正
正社員とパート・アルバイトの賃金格差をできるだけ縮めていく。
長時間労働の解消
労働時間の上限を規制(36協定)※トラックドライバーについては特例あり

そうなると運送会社はもう儲からない?
ポイント
正直将来真っ暗です。ドライバーの労働時間は売上に直結しています。基本的にドライバーが働けば働く程、会社の売上げは右肩上がりに上昇していきます。つまり売上が少なければ会社は儲からず、例え固定給制度の場合でもトラックドライバーの給与水準を落とさないと経営が困難になってしまいます。その結果高い給与を求めてきたドライバーは給料に満足できずに辞めていき、経営者もそこで働くドライバーも不満が高まっていきます。
下記で不満の例を見ていきましょう。
運転手の不満(歩合給の場合)
・今月俺、まだ〇回しか走っていけど売上あがってるの!?
・売上低くて給料大丈夫なの?
・もう、長距離稼げないので辞めます!
・別の会社に行こうかな・・・。
給料不満、将来不安のため退職。
経営者の不満
・売上げが落ちてきて、資金繰りが苦しくなってきた。
・労働時間が減った分給与を下げよう。
・長距離輸送はやめて地場配送に切り替えたい。
・運送厳しいな。
運送事業の継続困難・・・。




運送会社の長時間労働を解消し給与も維持する(労働生産性)
先の例で、トラックドライバーの労働時間が減ると、運送会社は儲からない将来真っ暗と書きましたが、本当はそうではないです。一体どういうことでしょうか?ここから少し難しくなるので、簡単にするために会社にいる事務員さんの例で考えていきましょう。
労働時間の生産性を考える(事務員編)
事務員さんで考察してみる。
日頃から会社で経理や伝票管理、いろんな帳票類から請求書類までをこなしている事務員さんに自分が社長になった気で課題を出します。
『労働時間短縮のため16時(定時は17時)になったら帰っていいよ』と伝えます。条件は❶今まで通りの仕事をしてもらうこと ❷終わらないならいつも通りの時間でいいことの2つです。
果たして事務員さんはどういう反応をするでしょうか?
素直に喜んでくれました。早く帰れることでプライベートな時間を有効に使えるからです。しかし事務員さんは1つ気になることがありました。労働時間が短くなる分給料は下がらないの?ということです。そこで私は条件を加えました。❸給料は現状と同じ額を支払う(これで不満はなくなりました。)さあ果たして・・・数か月後にどうなったでしょうか?
Before 8:30~17:30まで |
After 8:30~16:00(延長可) |
このように、忙しい時期を除いて以外と暇な時間は多いかもしれません。結果的に今まで通りの仕事をこなしてくれるので、会社にとっても影響は出ませんでした。もし早く帰れないくらい忙しいなら、それは仕事の効率が悪い可能性があります。その時は会社的に仕事が早く終わるように考えてやればいいです。
会社ができること→働き方改革に対応するため労働生産性を上げるツール
最終的に結果はどうなったのでしょうか?
前の例で、最終的には事務員さんの労働時間は大幅に減少しました。早く仕事を終わらせるために事務員さんが効率よく仕事をしたためです。これを労働の(時間)生産性が上がったと考えられることができます。
※仕事量 ÷ 時間 = 労働の(時間)生産性
ちなみに労働時間が短くなったが給料は変わらないので相対的に、時給はアップします。結果的に会社は効率良く働ける場所を提供し(採用時に時給を高く打てますね)、事務員さんは効率のよい労働力を提供することになりました。
これは、会社と労働者両方にとっての幸せといえます。
働き方改革の真の目的は時間生産性を上げること
実は運送会社が長時間労働を解消しながら利益を出していくことは、時間制生産性を上げることで解決ができます。つまり、今までは走って売上を上げることでドライバーが高い給料を貰い会社が儲かるの図式でしたが、今後はそうはいきません。これからは、如何に効率のよい運行をして利益を出していくかが大切です。ということで、働き方改革に合わせた運送会社の考え方をまとめてみます。
労働時間が短くなって働けなくなるというマイナス思考をやめる。
トラックドライバーは労働時間が短くなることで、給料は過去に比べて下がり続けると考える傾向がありますが、会社がきちんと生産性を上げる方法をとれば、むしろ時給効率は格段に上がります。長距離のドライバーは1運行が終わるごとに家で家族と過ごす時間が増えるかもしれません。そして無理な運行もしなくてよくなるかもしれません。
経営者側はドライバーの労働時間が少なくなることで売上げが減少するかもしれませんが、後に書きますが運賃交渉をしたり、効率のよい配送を提案することで利益を上げることを考えます。他社に比べて自社の魅力が高まっていきますので、自ずと業界の競争力が高まることになります。
ポイント(上の例を改善)
運送会社は将来真っ暗とは言えません。ドライバーの労働時間は売上に直結していますが、利益が出ているとは限りません。基本的にドライバーが働けば働く程、会社の売上げは右肩上がりに上昇してきますが、売上=利益とはなりません。むしろドライバーの限られた労働時間の中で、最大の利益を上げることに経営者は重点を置くことが必要です。そうすることでドライバーは、プライベートも充実できて、おまけに稼げる会社で働きたいと考え方が変わっていくはずです。おそらくこういったことに柔軟に対応できない会社は生き残れないため将来倒産のリスクを抱えることになり、柔軟に対応できた会社はドライバーの転職ニーズに応えることができるため、今後10年は安泰となります。(何故10年かというのは今後自動運転化も考えないといけないからです)



トラックドライバーの労働(時間)生産性を考える
運転手の労働生産性を上げる方法を考えていきます。先程の例のように自分が社長になった気で課題を出してみましょう。
『明日から労働時間の短縮のため16時になったら帰っていいよ』て、できませんでした。申し訳ございません。
なぜできないのでしょうか?
そもそも、ドライバーの労働時間は事務員さんと違って一定ではありません。ましてやドライバーがどれだけ効率よく仕事をしても
・1回で移動できる距離(制限速度)
・1回で持っていいける荷量(最大積載率)
・ 荷積み荷卸しの時間(荷主都合)
・1回でもらえる売上(運賃)が決まっています。
参照
簡単に表すなら
事務職は内向きの仕事(自分たちで解決できる)
運転手は外向きの仕事(自分たちで解決できない)と考えます。
つまり、運転手運転手がどれだけ効率よい仕事をしても労働時間削減になりません。その理由は運転手1人ではこの問題と戦えないからです。この場合は会社みんなで戦うしかありません。事務所も責任者も経営者も一緒に戦っていく必要があります。誰か一人でも協力を欠いたら達成出来ません。正面から堂々と戦いましょう。ドライバーの労働時間削減を考えるのは大変!まずは方向性を確認しよう。
トラックドライバーの労働時間削減のため方向性を確認する
運転手の労働時間削減に影響しているものを再度確認していきましょう。
・1回で移動できる距離(制限速度)
→ 改善不可
・1回で持っていいける荷量(最大積載率)
→ 改善不可
・ 荷積み荷卸しの時間(荷主都合)
→ 交渉次第で削減可能(◎超重要)
・1回でもらえる売上(運賃)
→ 交渉次第で上昇(◎超重要)
・運転手へ労働時間削減のための教育
→ (◎超重要)補足 ※別記事で書きますが、ドライバーは労働時間の他に拘束時間の概念が発生します。長距離運行の場合、4時間以上休まないと休息時間になりません。3時間くらいの休憩を繰り返すドライバーがいる場合、労働時間の前に拘束時間の上限に達してしまい、働けなくなります。そのためドライバーに対してこの概念をしっかりと教えることが重要になります。
他にも、ドライバーが効率よく仕事をできるように荷主に提案型営業を行い、運送会社の運行経路に合わせて頂くことも必要です。
まずは、会社の中でドライバーを含めた社内会議を行って、自分たちがどのように向かっていくかの方向性の確認が大事になります。
次に荷主交渉の一例を出してみます。主に時間生産性の優先度を用いて比較していきます。
荷主交渉の優先度を時間生産性を用いて比較
荷主に関して、どのような交渉をしていくのかの前に、まずは時間生産性でアプローチをします。下の図は荷主と交渉する際の優先度表したものです。
荷主A 労働時間は短い、運賃は高い 運賃は200,000円 時間は20時間 1時間当たりの時間生産性10,000円 |
荷主B 労働時間は長い、運賃は高い 運賃は200,000円 時間は25時間 1時間当たりの時間生産性8,000円 |
荷主C 労働時間は短い、運賃は低い 運賃は160,000円 時間は20時間 1時間当たりの時間生産性8,000円 |
荷主D 労働時間は長い、運賃は低い 運賃は160,000円 時間は25時間 1時間当たりの時間生産性6,400円 |
荷主Aは、労働時間は短く、運賃は高いもので1時間に対する売上が10,000円となっています。ところが荷主Dは、労働時間が長く運賃も低いもので1時間に対する売上が6,400円となっています。
つまり、荷主Aと荷主Dのお客様を比べると荷主Aさんの方が時間生産性が高いことが理解できると思います。
そこで、我々が最優先で交渉するべきなのは時間生産性が悪い荷主ということになります。
なぜか・・・?それは、時間生産性が悪い荷主は、解決に時間がかかる可能性が高いからです。単純に、荷主Dさんの立場から荷主Aさんの立場に行くためには、時間の交渉と運賃の交渉、2つの成果を同時に達成する必要があります。
ドライバーさんの長期労働時間の解消と会社の経営の安定化を図るためには、こういったことを本気で考えないといけない時期です。時には時間生産性の悪い荷主さんとの取引を中止することも必要なのかもしれません。




値上げをしなくても時間生産性をあげることもできる。
荷主さんがどうしても値上げ交渉や労働時間削減に協力してもらえない。それどころか行き過ぎた交渉によって荷物がなくなってしまった。それでも対応することは可能です。そもそも労働時間が短く、売上(運賃)が高い荷物などそもそも簡単には見つかりません。そこで逆転の発想で荷物を探してみましょう。今までより売上(運賃)が低くても労働時間が短い荷物を運べばいいのです。運賃低くても労働時間短いならよくね?の発想です。
大阪→東京(旧) 労働時間は長い、運賃は高い 運賃90,000円 時間16時間 1時間当たりの時間生産性5,625円 |
大阪→東京(新) 労働時間は短い、運賃は低い 運賃80,000円 時間10時間 1時間当たりの時間生産性8,000円 |
こういったことも可能になります。1ヵ月間の労働時間に直すと相当削減されますので、もしかするとあと1回運行できるかもしれません。つまり売上を上げれる可能性があります。※もちろん走る距離が延びるので、燃料や高速代が増えるかもしれません。しかしこういう発想もできるということ。簡単にするためここでは長距離で統一していますが、地場の配送も時間生産性を意識することで、労働時間を短縮しつつ売上げを上げることは可能です。
とりあえず値上げ&労働時間の交渉
全ての荷主にとりあえず値上げ交渉
生産性を上げるために1番有効な手段は値上げ交渉と労働時間の削減交渉です。いくら上げればいいとこは考えずに(嘘です)、全ての荷主にとりあえず値上げ交渉するが正解です。(詳細分析は企業秘密)
労働(時間)生産性 = 運賃 ÷ 時間
※労働時間を減らしても逆説的には値上げになります。交渉の幅は無限大です。運賃は上げられないが荷卸しの場所を1ヵ所減らすとかも有効かもしれません。



まとめ
トラックドライバーの皆様、今から数年は会社を選ぶ側になると思います。労働人口の減少と物流需要の上昇によって、トラックドライバーの確保が難しいとされているからです。しかしながら今の会社がもし働き方改革に柔軟に対応できなければ、いずれ業界から退場していくと考えられます。それほどまでに日本の労働環境は変わりつつあるということです。そういったことも考えながら、自分の会社がどのような環境に置かれているかを考えていくと、いいドライバーライフを送れると思います。また経営者の皆様は、今の難局を乗り越えるため、まずは今できることをしっかりと考えていきましょう。